音楽クイズ NO.326 旅行者の災難 もしかして


 日本国内、有名観光地をはじめ、多くのインバウンド(外国からの)旅行者でにぎわっている。中には、よりディープな日本の文化に興味を持っている旅行者もいるよう…。

 私は東京都下M市の交番に勤務する警察官、管轄は市の中心部より少し離れた地域。幹線道路が通っていて、道路沿いには小規模のオフィスビルや公共施設など並んでいるが、にぎやかな商業施設などもなく、背後には閑静な住宅地がひろがっている。比較的のんびりした勤務地ではある。
 正月三が日も無事に過ぎ、世の中も動き出した。東京は前日夜から未明までの雪で、人家の屋根や緑地の木々もうっすらと雪化粧している。午後、事件?の連絡が入り、現場に急行した。現場は幹線道路にかかる歩道橋。外国人らしい若い男性が歩道橋の階段の途中に倒れていて、近所の買い物帰りの婦人が発見し救急車を呼んだ(午後3時半頃))。救急隊員の処置中、現場検証をする。男性は後頭部と手から多少の出血があり、意識はなかった。状況的に階段で頭を打ったのは間違いなさそうだ。婦人の証言によれば、発見時に声をかけると「スリ、・・・」(そう聞こえた)と言い、意識をなくしたという。バックパックのポケットのチャックが開いていて中身がはみ出しているのを確認した。急ぎ彼は近くの病院に搬送された。
 病院ではICUに移され治療を受けている。意識はなく重度の脳震盪をおこしているそうだ。所持品から身元が判明、クリスマス前に入国したアメリカの大学生であった。そう、パスポートや財布は無事だった。ただ、必携と思われるスマホだけが見当たらなかった。この時点では単独の事故か事件か断定できず、報告後、現場近辺の聞き込みにまわることにした。
 聞き込みの結果2つの証言が得られた。午後二時半過ぎ、近くの中華料理店「宝来軒」でラーメンを食べた。特に変わった様子はなかったが、精算の時、レジの壁にかかっている創業当時の屋台のパネル写真を見て、店員にことわりスマホで写真を撮って行ったとのこと。やはり、彼はスマホを持っていた。もう一つは同じ並びの楽器店「楷藤ギター」の主人の証言。午後3時頃、若い外国人が歩いて来たと思ったら、店の前の歩道で立ち止まり、幹線道路の方に向かってスマホで写真を撮っているようだったとのこと。道路の向こう側には緑地とその間に住宅地へ続く道路があるだけだ。その時刻、何か変わったことがあったか尋ねると、特に変わったことはなく、その後、少し急ぎ足で来た方へ戻って行ったとのことである。「そうですか…」と少し考えあぐれていると、主人が少し気の毒そうに話しかけてきた。
(主人)「甘い石焼き芋でもどうですか?頭が休まりますよ。」
(私)「ああ、ありがとうございます。お気持ちだけで…」
(主人)「そうそう、今度向こうの喫茶店でボサノバ中心のサロン・コンサートをやりますので、よろしければどうぞ。」と壁のポスターを指さした。
(私)「へえ、”イパネマの娘”や”ワン・ノート・サンバ”ですか…私も知ってます。いいですね…」
その時、突然「もしかして」という思いにかられ、楽器店を辞し、確認と報告のため交番へと向かった。


(問題) 警察官が「もしかして」とひらめいたのはどんなことだった?