音楽クイズ NO.221 


 あれからちょうど4年・・・。世界第二のダイヤの首飾りは怪盗ギロのコレクションに加わったが、あの少女の言葉がずっと心の隅にひっかかったままだ。冬の始まりのある日、私は、あの丘の上のドライブインに車で向かっていた。

 ドライブインまであと10キロ程のところで日は暮れた。車のヘッドライトに照らされた冬枯れの木々が目の前を過ぎていく・・・。 おや!何か動いた。 スマートな体に長く立派なしっぽ・・・。

きつねだ。 だが、見えたと思ったら、すぐ藪の中へ消えてしまった。

思いがけなくきつねに出会い、うれしくなってついつい鼻歌も出てきた。

♪ こぎつね こんこん 山の中 山の中 草の実 つぶして お化粧したり

  もみじの かんざし つげのくし~ ♪

え? お化粧!? かんざしに くし!?  おしゃれ!?

「冬の(おしゃれな)動物の歌」とは「こぎつね」では!?

でも、「詞のない」とはいったいどういうことか・・・。

 

 諸君はもうおわかりだろう。そう、歌詞ではなく階名(ドレミ)で歌ってみたまえ。この旋律はド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・高いドでできている。そう、シがない。「シのない冬の動物の歌」というわけだ。

 

 子どもにしてやられたな と思いつつ、ドライブインにすべりこんだ。

 夕食を食べながらあの女の子が出てくるのを期待していた。でも、いくら待っても出てこない理由は、経営者のご夫婦と地元の人たちとの話でわかった。彼女は、3年前に不治の難病で天に召されていた。今日はその命日とのこと。星になった、星の大好きな娘に家が見えるよう店を開けているんだそうだ。あの笑顔と澄んだ目が思い起こされた。

 消沈した気持ちで店を出た。ふと振り返る。今まで気づかなかったがこのお店の看板が目に入った。 「ドライブイン カノープスの丘」。すると、いろんなことが、走馬燈のようにめぐったかと思うと、すべてが1つにつながってきた。

 

 そう、カノープスは夜の星(恒星)ではシリウスについで2番目に明るい星。しかも、水平線ぎりぎりの位置にあり、日本では南方面や高い位置からでないとなかなか見られない。中国では「南極老人星」とされ、この星を見たものは長寿となるという伝説がある。

 自分の寿命を悟っていただろう女の子にとって、この丘から見える「世界で2番目の宝石」カノープスは特別のものだったに違いない。

 

 あの時の私は稼業で血走っていて何も気づけなかったが、女の子は何か通じるものを私に感じていたのかも知れない。おわびに、今日は少しだけ、いっしょにカノープスを探してみよう。シのない、おしゃれなこぎつねの歌を口ずさみながらね・・・。